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90年代ネオソウルを代表する名盤の一つ。



ネオソウルないしニュー・クラシック・ソウルと言われたこの時期の70年代ソウル復権ブームの中でも、ここ日本ではD'Angelo、Maxwellと並んで御三家的な扱いだったエリック・ベネイ。孤高の感じがする他の二人と違って親しみやすそうなんで、日本人がR&Bする時の手本によくなっていた気がする。



実は姉と組んだユニット「Benét」として92年に一足先にデビューしており、この"True To Myself"(1996)は次作のソロ・デビュー作となる。



制作は、本人(All Vocals Except 1)とDemonté Posey(Keyboards, Drums)と従兄弟のGeorge Nash, Jr.(Guitar)の三人による共同プロデュース。



1 "True To Myself"
ソウルフルなエレピとギターのイントロに、一瞬チープなシンセベースが入ってぎょっとするが、歌が始まると70年代のStevie Wonder的ソウルの手触りを丁寧に再現していることが分かり安心する。Benétを組んでいた姉のLisa Jordan-Weathersがゴスペルチックな女性コーラスを加える。

2 "I'll Be There"
繊細な旋律のファルセット・バラード。厚みのある多重録音コーラスでボーカル・グループの曲にも聴こえるがドラムが生なのがネオソウルの到来を思わせる。

3 "If You Want Me To Stay"
ZappのRoger Troutmanが制作、曲はスライの有名曲カバーというファンク好きなら鉄壁の布陣。この曲のベースラインを使って駄曲になるはずがない。Rogerのトレードマークのトーク・ボックスは後半に少し出てくる程度だが、90年代のRogerらしいスッキリと洗練されたファンクに仕上げている。ジョージ・ベンソン風にギターとユニゾンでスキャットさせるところなどRogerの好きそうな感じ。

4 "Let's Stay Together (Midnight Mix)"
アル・グリーンのとは同名異曲のスロー。

5 "Just Friends"
スライ風打ち込みのリズムを聴かせるファンク。

6 "Femininity"
2の路線で密度のあるファルセットの多重録音コーラスを聴かせる。

7 "While You Were Here"

8 "Spiritual Thang"
ジャキジャキしたアコギのストロークにスムーズな打ち込みのリズムが気持ちいいポップ・ソウル。

9 "Chains"
1と同じ感触のシンセベースが躍動するポップなスロー。

10 "All In The Game"
70年代スウィート・ソウルにはおなじみのエレクトリック・シタールが登場。

11 "More Than Just A Girlfriend"
70年代風シンセ・ファンク。これにはAl Greenの"Love And Happiness"のドカドカしたリズムを引用。

12 "What If We Was Cool"
アコギに最小限のワウギターで彩るフォーキーなファンク。ハーモニカ(鍵盤ハーモニカらしい)が入るとどうしてもStevie Wonderを連想する。

13 "Let's Stay Together"
4のオリジナルだがほぼ異曲。オルガンとハンドクラップの効いたゴスペル風スロー。



三人体制の生演奏で70年代のソウルの質感を上手く再現し、要所で8のように90年代R&Bの洗練された感触も足されている。総じて楽曲の旋律の強度が高く、90年代ネオソウルを代表する名盤と言える。



カリスマ的オーラを放つD'Angelo、Maxwellと比べると、ルックスの良さも相まって若干アイドル歌手みたいな印象を受けるが、本作を聴けば本格ソウルシンガーと誰もが認めるだろう。Demonté Posey、George Nash, Jr.との共同体制はエリックのキャリアを通じて続き、この三人を合わせて自作自演型ミュージシャンと捉えることも可能。先も言ったように、90年代後半の日本人のR&B歌手のロールモデル感もあるので、邦楽R&Bファンがこのへんの洋楽に入る一歩目にもおすすめします。